虫むし博士が教えるフィールドワークやしま
平たい山上、森林、崖、海、人里…
屋島には多様な環境がコンパクトに収まっています。
そこに暮らすさまざまな「いきもの」、貴重な「いきもの」を
まとめて観察できるのが屋島の大きな魅力です。
どんな「いきもの」に出会えるか。
“わくわく”を探しに行きましょう。
野生生物保護研究員
NPO法人みんなでつくる自然史博物館・香川
昆虫を筆頭にいきものの生態、環境との関係性に深い見識を持つスペシャリスト。
軽妙な語りの解説が人気。昆虫好きを増やすインフルエンサー
地形と地質
山上が屋根のように平らな形をしていることから名付けられた屋島は、北嶺が約282m、南嶺は約292mと起伏が緩やかな台地状です。この地形は「メサ」と呼ばれ、約1400万年前の火山活動で噴出した溶岩が水平に流れ出し、周囲や上部に浸食が加わって形成されました。基盤が花崗岩、中腹から上部にかけて凝灰岩が堆積し、最上部には讃岐岩質安山岩が水平にのっています。
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屋島の植物
980種類の植物が確認され、698種が在来種です。マツクイムシによって枯れた松林の大部分がアベマキやコナラなどの落葉広葉樹林になりました。常緑広葉樹のウバメガシの純林があり、ヤマザクラやハゼノキが四季折々の彩りを見せます。
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山、海、川、干潟、人里がそろう屋島は絶好のフィールドワークポイント。ほにゅう類は香川県に生息する約半分、19種類がいると推測されています。鳥類は79種類。昆虫は750種、カタツムリの仲間も48種が確認され、はちゅう類、両生類、甲殻類もいます。屋島は生物研究者にも注目される観察フィールドなのです。
マークがついているいきものは、注意が必要です。
「なぜ?」を考えよう!
いきもの観察は、どこに、いつ、どんな生物がいて、
なぜそこにいるのかを考えることが大事だよ。
植物図鑑
ウバメガシ
アカマツ
ウラシマソウ
コウヤボウキ
ハマヒルガオ
ハマゴウ
屋島山上の植物
「讃岐層群」という地層にのみ生育することが知られている植物です。
チョウジガマズミ
イブキシモツケ
イワシデ
鳥類図鑑
ミサゴ
トビ
ハヤブサ
メジロ
エナガ
ヒヨドリ
ホトトギス
オオルリ
キビタキ
屋島はミサゴの大切な繁殖地となっている。
アカマツのてっぺんに巣をかけるんだ。
観察ポイント
- 南嶺 獅子の霊巌展望台、北嶺 魚見台
- 上空だけでなく、飛ぶ姿を見おろして観察できる。
観察ポイント
- 新川の河口干潟
- 潮が満ちてくると屋島方面から飛来し、
魚を狩る姿が見られる。
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ほ乳類図鑑
タヌキ
イノシシ
キクガシラコウモリ
遊歩道や展望台の柵下の壁沿いなどに草が倒れた一本道がある。タヌキなどが通るけものみちだ。屋島のタヌキは「日本三名狸」に数えられている。屋島寺の蓑山大明神にも祀られ、ジブリアニメにも登場する。実際はとても臆病な動物だ。
遊歩道周辺の掘り返された土はイノシシが鼻でエサを探したあとだ。道を横切った細長い2つのひづめの跡も見られる。
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昆虫類図鑑
カブトムシ
コクワガタ
ナミハンミョウ
ヤマトタマムシ
オニヤンマ
モンスズメバチ
アサギマダラ
アカシジミ
テントウムシ
ヤシマホソヒラタゴミムシ
ハマベゾウムシ
昆虫に出会いやすい時や場所を教えるよ。
観察ポイント
- 屋島山上観光駐車場周辺
- 夏の月が出てない日、月が雲に隠れているときに、街灯や看板、自動販売機、建物周辺の路上にカブトムシやクワガタムシが落ちていることがある。
夜活動する昆虫は月の並行な光に対し一定の角度で飛ぶ。
乾燥に弱いので雨上がりなどの湿度が高いときに活動する。
月が出ていないと宇宙からの紫外線と間違えて、人工物の広がる光に結果的に集まるんだ。
観察ポイント
- アベマキの木
- いろんな昆虫がアベマキの樹液に集まる。近くにボクトウガがいる。
ボクトウガはアベマキに卵を産む。幼虫は樹皮に傷をつけて樹液をださせ、寄ってきた昆虫を食べる。
観察ポイント
- 街灯近くのクモの巣
- クモの巣の周辺にはレアな昆虫がいることがある。
クモの巣にかかった虫がニオイ(フェロモン)を出して仲間を集めるんだ。
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※他にも側溝、排水溝、木や岩の割れ目、葉が食われた植物の周囲も見てみよう。
希少種やテントウムシに出会えるかも
観察ポイント
- 北嶺の千間堂広場の池
- ここは水を通しにくい地層の上に雨水が残った自然の池だ。日暮れに飛ぶ貴重なマルタンヤンマが生息。アオヤンマもいる可能性がある。ニホンアカガエルやニホンヒキガエル、そのオタマジャクシもいる。
山上で田畑がなく、農薬の混じらないピュアな水はトンボなどの繁殖に最適。トンボにとっての産卵場所や幼虫(ヤゴ)の隠れ場となる水草が多い事も,大切なポイントだ。
観察ポイント
- 北嶺の千間堂広場のトイレの壁
- 12月頃、テントウムシの集合体が見られる。
太陽の熱を蓄えた壁からは赤外線がでていて、それに誘われて集まる。日があたる側は乾燥するので裏側に移動。集合体の呼吸による湿気を、固まることで逃げにくくして越冬する。カメムシも同じ行動をとる。
両生類図鑑 / 陸貝図鑑*
*陸貝=カタツムリの仲間
アマガエル
【両生類】コベソマイマイ
【陸貝】フトキセルガイモドキ
【陸貝】イソムラマイマイ
【陸貝】
(注)条例で採集が禁止されています!
屋島はカタツムリの名所だ。県内で生息が確認されている
130種のカタツムリのうちの37%、48種がいる。
観察ポイント
- 建物の壁やブロック塀
- コンクリートからしみ出す炭酸カルシウムを食べて、内臓のある殻を補強している。人工物から効率よく栄養をとっているんだ。
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爬虫類図鑑
タワヤモリ
シマヘビ
ニホンマムシ
すき間はいきものの基地。
観察ポイント
- 南嶺から北嶺の千間堂広場に向かう遊歩道
- 岩場や木の割れ目にタワヤモリの卵や子ども、成体がいる。すき間からひっぱり出そうとすると体をふくらませるよ。
天敵はヘビ。ひきずり出されることは死を意味する。ふくらんで抵抗するんだ。指の裏には細かい毛がたくさん集まった指下板(しかばん)があり、壁面などにピッタリはりつく。
捕まえ方
尻尾の後方と頭の前方のすき間を埋めて進路・退路を防ぎ、出てきたところを捕獲しよう。
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『フィールドワークは子どもの感性を磨きます』
なぜそこにこの虫がいるのか、なぜ植物はこの方向を向いているのか、全てに意味があり、子どもはちゃんとそこに興味を持ちます。好奇心が動くと目が輝き、われ先に情報を求め、積極的に行動します。
この子どもの好奇心を大人の都合や判断で邪魔しないことが大事です。
フィールドワークは感性や自己肯定感を育てます。観察し、考え、解決する力を磨きます。虫や幼虫が嫌いな子も「卵だ」「赤ちゃんがいる」と言葉をかえると興味を示します。子どものうちにさわって、育て、いろんな失敗もして欲しい。捕まえた虫が死んでしまい泣くことも大事。最終的に埋めてお墓を作り、手を合わせるまでが貴重な「勉強」です。
屋島は子どものフィールドワークに最適な場所です。
ここから偉大な科学者が誕生することを期待してください!
注意しよう!必ず大人と一緒に行動を。
- 服装自然の中に行くには準備が大事
- 長袖、長ズボン、しっかりした靴、帽子、手袋、網、捕獲箱、水筒、雨具、携帯電話、健康保険証
- 屋島で出会うことがある危険ないきもの近づかないようにしましょう
- スズメバチ ニホンマムシ イノシシ
- 連れ帰ったり移動させたりしてはいけないいきもの特定外来生物
- 在来種の生態系を壊す生物です。捕まえないようにしましょう。
外来生物の防除について
- 写真提供
- NPO法人みんなでつくる自然史博物館・香川 高木 真人[32点] / 佐藤明[チョウジガマズミ,イブキシモツケ,イワシデ] /
安森 盟文[アマガエル,タワヤモリ] / 松本 慶一[ヤシマホソヒラタゴミムシ] / 脇 悠太[ハマベゾウムシ] - 取材協力
- NPO法人わははネット